自縄自縛 3
が落ち着いたので 1人と2匹は 寺に帰る事にした。
の希望で リムジンは変化したそのままの姿で 肩にジープを止まらせ
と2人連れ立って歩く。
リムジンが 変化した闘神は 中々のハンサムで 身長も高く
まあいい男と言っていいだろう部類に入る。
いつもなら 必要がなくなれば すぐに変化を解くリムジンだが、
主を泣かせた三蔵に少々腹も立っていたので
意趣返しに そのまま寺へと入った。
庫裏の玄関から出入りしたのでは 里人の目にとまって 面倒だというので、
三蔵たちは 庭の縁側から出入りしていた。
ちょうど 庭に向かった縁側に 三蔵と八戒は地図を広げて 今後のルートについて
話し合っていたところへ 先の1人と2匹が帰ってきたのだった。
リムジンは 庭に入ってから の肩を抱き 自分に寄り添わせて歩いていた。
まるで 恋人同士が肩を寄せ合うようにである。
さっき泣いたばかりのも そんなリムジンに甘えて もたれた。
は 気付かなかったが リムジンは庭先に 三蔵と八戒の気配を感じていたのだ。
「あれ 珍しいですね、リムが変化を解かないままで 帰ってくるなんて
それに ジープも僕と悟空以外に リムの肩になら乗るんですね。」と
のん気そうに 八戒は言った。
それにつられてその2人の姿を見た三蔵の目が
すうっと細められたのを 八戒は見逃さなかった。
おやおや 三蔵に 嫉妬させるつもりですか リムもやりますねぇ〜。
また が力の抜けたいい顔で甘えちゃって あんな顔見せられたら
僕だってクラクラしちゃいます。
変化したリムジンはを 三蔵たちを見ないように
だが 三蔵たちからは さりげなく見えるように 立たせて 軽く抱擁した。
「様 これからする事を 黙ってお受け下さい。」と そう前置きすると、
リムジンは の額に 口付けを落として 再び抱擁した。
肩に乗ったジープからも 同様に口付けをもらって うれしかったは
花のような笑顔を 見せた。
その笑顔を見た三蔵は 不機嫌を通り越して 殺気立った。
ついいつもの癖なのだろう 懐の愛銃に手を伸ばし 戟鉄を起こすと
庭にいる リムジンに向けて狙いを定めた。
その殺気に気付いたが 三蔵の方に振り向いた。
三蔵としては リムを狙っているつもりでも から見ると
自分も射程内にいるように見える。
しかも 三蔵が狙っているのは 自分たちなのだ。
悟浄や悟空には 発砲するのをよく見かけるが、ジープやリムジン・に
照準を合わせた事のない三蔵が それをした事で、
は 思わずリムジンとジープを 後ろ手に庇った。
「リム、変化を解きなさい。小さい方が 当たりにくいわ。」
後ろにいる リムジンには 声を掛ける。
「早くしなさい!三蔵の殺気は 本物よ。
悟浄たちと違って私達は避け方を知らないのだから、
撃たれたらまず当たってしまうわ。」
の言葉に変化を解いたリムジンだったが、大きさは人の倍程度になった。
その翼で とジープを包み込んで そのまま動かなくなった。
「三蔵 に嫌われたくなかったら 銃を降ろした方がいいですよ。
まさか 本気で撃つつもりじゃないんでしょう?」
八戒が 静かに制した。
三蔵が ゆっくりと戟鉄を戻し、銃を降ろす。
それを 無言で見たリムジンは 翼で庇っていた とジープを光の中に戻した。
三蔵とは 静かに見詰め合っていた。
どちらかといえば 睨み合っていたと言う方が 正しいかもしれない。
の顔は 怒りとも悲しみともつかない 表情だった。
ジープは 八戒の元に飛んで戻ったが
は 小さく変化したリムジンを肩に乗せたまま
三蔵と八戒に背を向けると そのまま その場を離れて 庭を出て行った。
表に回ったは ちょうど境内を掃除していた青華を見つけた。
「青華さん ちょっと言付けをお願いしてもいいですか?
昨日調査した川に 気になることがあるので 私はもう一度戻って調べるから、
先に行って欲しいと三蔵に伝えて下さい。
お願いしますね。」
青華が快く了承してくれたので、は踵を返すと 寺を出た。
「様 お戻り下さい。
先ほどの三蔵様は 私に嫉妬しておいでだったのです。
ここに着いてからというものあまりに様が お寂しそうなので
三蔵様に意趣返しをしたくなりまして、つい 煽ってしまった私が悪いのです。
どうぞ お怒りをお静めになりまして お戻り下さい。」
肩でリムジンが精一杯 説得するのだが は聞こえてもいないように振舞った。
これはダメだ・・・とリムジンは思う。
主の揚子江神女 様は 普段温和な方なのだが 切れると本当に恐ろしい。
ここまで 様がお怒りになられた場合、自分の思ったようにされなければ
お怒りは解けないだろう。
この寺に着てから だいぶご自分を抑えに抑えていらしたようだったから、
三蔵様に銃で狙われたのが、引き金になったのだ。
これから どうされるかは知らないが、様がお1人になられても
自分はお側でお守りしなければならない。
そう覚悟をきめると 何も言わずに 黙ってその肩にとまっていた。
夕餉の時間。
皆が揃ったのに の姿がない。
食器もおかずも の分は用意されていない事に 八戒は不審に思った。
「青華さん が何処にいるかご存知ですか?」
この夕餉の仕度をした青華なら 何か知っているかもしれないと、八戒は尋ねた。
「はい なんでも 昨日調べた川が気にかかるとかで、もう一度向かうそうですよ。
あぁ 皆さんには 後で追いつくので 先に行って欲しいとのことでした。
忙しかったものですから 言付けをお話しするのが 遅くなってしまってごめんなさい。」
「それはいつの事ですか?」
「え〜っと 私が境内の掃除をしていたときでしたから、
午後3時くらいではないでしょうか。
様 リムジンという黒龍を肩に乗せてましたよ。」
その青華の説明を 新聞を読みながら聞いていた三蔵と聞き出した八戒は
2人揃って顔を見合わせると らしくないほどあわてて 外へと飛び出した。
「八戒 お前は そっちを捜してくれ。
俺はこっちに行ってみる。」
「わかりました。
三蔵 はもうこの辺にいないかもしれませんよ。
出合った頃に宿を飛び出したのとは 状況が違いすぎます。」
「それでも 行ってくれ。」
八戒は 黙って頷くと 割り当てられた方向へと 向かった。
三蔵の銃口から リムジンとジープを庇った時のの顔が 思い出される。
三蔵の殺気はいつも本気だが、少なくともがいる方向へは向けられた事はなかった。
たとえ それが嫉妬という言い訳があったとしても・・・・・・。
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